学生時代に取り組んだ、住宅のアイディアコンペ案です。
タイトルがそのまま、コンペの「題」になっています。
「写楽」は江戸時代の浮世絵画家、東洲斎写楽のこと。
彼の描いた「役者大首絵」を題材としています。
「大首絵」は、芝居のワンシーン、その瞬間の、役者の姿を切り取ったポスターのようなものなのですが、
描き方が面白く、「役」(そのシーンの台詞、しぐさ、衣装など)と、「役者」(顔つき、骨格、肌のいろなど)の描写が、
同じ強度で一つの絵の中に重ね合わされ、まるで2つの違う方向に引っ張られているような「張り」を感じます。
「役」はイメージ上の存在、フィクションであり、「役者」は現実の存在ですから、本来無関係、とまでは言いませんが、「別のもの」です。「大首絵」には、それらが「相反しつつ共存」していることが、強く感じられるのです。
ところで、こうした「役」と「役者」の関係は、住宅の「室名」と「空間」の関係にも当てはまるのではないでしょうか?
「玄関」-「リビング」-「ダイニング」-「台所」-「浴室」-「寝室」というような「機能の羅列」と、実体としての複数の「部屋の塊」の間には、必然的な繋がりがあるような、あるいは全くないような、奇妙な空気感が漂います。
もちろんこれは、構造的な制約から解放された、空想的な条件下での「思考実験」に過ぎませんが、それをすることで、「家」やそこで繰り返される「生活様式」というものが、実は一つの「フィクション」であることを改めて感じる、という結果も生じてきます。そういう目線で「家」を眺め直す、という考えでまとめた案でした。
悪くないとアイディアだと思ったのですが、残念ながら提出には間に合わず、お蔵入りとなってしまいました。