収める・収まり

どんな「建築」にも解決すべき問題があります。

デザイン、使い勝手、構造強度、予算、工期、周辺環境、ときには建築の中で行われる活動や企画そのもの etc.
それらの問題を解決し、現実可能な形にすることを「収(おさ)める」といい、その具体的な形を「収まり」といいます。

写真は、保育園の別棟増築計画ですが、ここでも多くの「収まり」が求められました。

◾️ 法的な「収まり」

旧園舎は、いわゆる「既存不適格」(古い設計基準で建てられ、現在の基準法に適合しない建築物)ですが、こうした建物は多くの場合、「現状のまま、変更しない」という条件つきで、使用が許されています。耐震補強などの変更をすることは可能ですが、その場合には、建物全体の調査と計算がされなくてはなりませんし、コストも時間もかかってしまいます。また、やり方によっては「増築」そのものが不可能と見做されることもあります。ここでは、旧園舎と増築部分の位置関係と面積その他を調整することで、旧園舎をそのまま使える様に増築部分の法的な解釈を「収め」、増築を可能にしています。

◾️ 深い庇の「収まり」

旧園舎は「既存不適格」建築のため、そのまま使うためには構造に手を加えてはいけません。しかし、園庭に面して奥行きの広い「庇の空間」が欲しいというのが園の希望でした。ここでは、建物に寄りかからない独立した一本柱で立つ「庇」の構造と、旧園舎と庇の「構造的に干渉しないし、雨漏りもしない」ディテール=「収まり」によって、庇を収めています。

◾️ 敷地の中での「収まり」

増築部分の敷地は、奥行きがすぼまり、向かい側の隣地は丘陵状(がけ地)の墓地となっています。そうした環境で、園庭を圧迫せず、旧園舎と増築部分が一体的に利用できることが求められました。ここでは、増築部分の外形輪郭を、敷地の輪郭線に沿うゆるやかなカーブでまとめることで、効率的に面積を確保し、保育園の内側にも外側にも圧迫感を与えない柔らかな形に、増築部分を収めています。


建築にまつわる様々な問題を「収める」には、設計者の技術と経験が必要なだけでなく、多くの専門家の協力と協働が必要です。この計画では、法的な解釈を「収め」るために、複数の確認審査機関(建築物の適法性を審査する組織)から異なる意見を聴取して、計画を可能にできる道筋を探しました。また、構造の専門家の協力によって大きな庇と建物が安全に設計されことで、大切な地域のストックである旧園舎を今後に活かすことが可能になっています。

Photo: Kenji Tokunaga(空撮とも)

<太陽保育園(増築)>
場所:鹿児島県薩摩郡さつま町
竣工:2016年
施工:(株)道添建設
種類:保育園
構造:鉄骨造
規模:地上1階
構造設計:株式会社中村建築事務所

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